長月キョウカのあしあと

つれづれなるままに

【ゲームの感想】G線上の魔王

【ゲームの紹介】

 さて、今回から新シリーズです。と言いながら実はすでにほぼクリアしてしまっています。「G線上の魔王」(AKABEiSOFT2より2008年5月29日に発売)です。萌えゲーアワード2008大賞を受賞した名作です。評判の高い作品で、いろんな人がおススメの作品として挙げており、かなり前から気になっていたんですよね。この3月くらいから急にやりたい欲が爆発してスプリングセールで購入はしていたのですが、他のゲームとの兼ね合いで6月になってしまいました。といっても、9日(日)に始めて昨日の11日(火)にはメイン√をクリアしました。それだけ手が止まらず面白い作品だったと言えます。このブランドでいうと母性彼女ー知性崩壊編ーをやったことがありますが、あれはヌ〇ゲーだったので、今回とは全然別のものです。今回は1章~3章までの感想を書きます。それ以降の章もプレイしたうえで書いているので、4章以降の内容も含んでいると思います。ご注意を。御託はさておき、ちょっとだけあらすじ紹介。
 フロント企業の影役として働く主人公の通う学校に宇佐美ハルという少女が転校してくる。彼女は自分のことを勇者と名乗り、魔王を追っていると教える。主人公の身の回りに襲いかかる災難、魔王との戦い、そして命をかけた純愛……。

 以下、重大なネタバレを含む……。

 

 

 

 

 

 

 

【ゲームの感想】

第1章

 導入の章だが、サクサクと進んでくれてやりやすかった。日記キャラにより登場人物を紹介させるという方法は便利だなと思った。1番驚いたのは宇佐美の人柄であった。今までサンプルの画像(黒板の前に立ってうつむいてる画像)などしか見たことなかったから、てっきり内気なキャラクターなのかと思ってた。普段は小さな声でボソボソしゃべる感じだけれど、魔王に対しては強い執着を抱いている的なキャラクターかと思ったら、けっこう軽いノリを入れてくるというかひょうひょうとしているというか、つかみどころのないキャラクターだった。事件について人に尋ねるときのマイペース具合というか捉えどころのなさは、サスペンス物の刑事(古畑など)を思い起こさせる。こういう人、好き。それぞれのキャラについて詳しく書いていきたいけれど、それは各章の感想のところで書く(栄一は最後)。ちなみに花音の声を初めて聴いたときはすごく驚きました。

 さて、第1章はいわゆる導入で、魔王が仕掛けた鬼ごっこによって魔王、宇佐美というキャラクターや作品の雰囲気をよく紹介できていたと思う。これからの方向性をつかみやすかった。暗号文に関しては若干、幼稚な気もしたけれど気づかなかったから、ワイはもっと幼稚ということねT_T。3つの道のやつは解けた。けど、ジャスト5分くらいかかったから、魔王には失望されてそう……。

 メインのストーリーが展開されるまで退屈ということもなく小さな山場をサクッと乗り越える感じで、ダレない良い導入だったと思う(といってもどの美少女ゲもだいたい掴みはよくできてるけどね)。

 

第2章 遊興の誘拐

 個人的にけっこう上手くできているな(なんで上から目線!?)と思った章。よくありそうな展開が

ヒロインと両想いになった!

→実は自分は裏で仕事をしていて、ヒロイン(やその関係者)に悪いことをしないといけない

→主人公は責務と愛の間で懊悩する。また、良心の呵責にかられる。

的な展開。ただ、今作の主人公はこの時点では浅井権三の元で育った冷血漢としての側面がほとんどだから、こういう展開にはならない。そうではなく、自分が持たないもの(善の心、無垢、家族愛)などを持っている椿姫に対して、苛立ち、不安、嫉妬を感じる主人公という描写のされ方をしていて面白いなと感じた。

 もう1つ面白いポイントだなと思ったのは椿姫と家族・友人の関係。そして、椿姫自身の変化。事件前まで良くも悪くも椿姫の家族は甘々すぎた。1回目の広明が遊びでいなくなったとき、画面の前のワイも「さすがに叱れよ。それは教育としてどうなんだ?」とツッコんでしまった。貯金箱から勝手にお金を取ることもしてるみたいだし、一度きちんと教育したほうが良いと思うぞ。疑うことを知らなかった椿姫が魔王に心を黒く染められて、家族に苛立ちをぶつけたり、ハルに八つ当たりをするようになったりするところとか、自然な心理変化だし絶妙だなと思った。これが本当に絶妙なの。椿姫からしたら、結局事件を引っ掻き回しただけにしか見えないし、ハルのとばっちりで自分たち家族が標的にされたような気もする。そして何よりも主人公に対して恋をしているが故に、ハルに嫉妬する部分もある。同級生たちが普段送っているキラキラした生活への憧れ。そういった事情が絡まって、徐々に徐々に椿姫の心が荒んでいく様子が絶妙だと思った。

 こんな感じで対極の位置にいた椿姫と主人公が互いに影響され合うというのが面白いポイントだと思った。荒んでしまった椿姫をどうやって元に戻すのだろうと思っていたら、弟をぶつけるという方法だった。椿姫が広明を見るとき、かつで主人公が椿姫を見たときと同じような感情を抱いた。ただ、椿姫は元々そちら側の人間だったからか、弟の純粋無垢な心にあてられて元に戻ることになった。感動とかそういうのとは違うけれど、良い締め方だと思った。ちなみにどれだけ子どもの世話に疲れたとしても、「諦め」、「手を上げる」はやっちゃダメなんだゾ。

 Bad Endはこれはこれで背徳的・逃避的で良いかもしれない。Hシーンの「人に触られるの全然違う」っていう椿姫のセリフ、いろいろ膨らんじゃうよね。

 椿姫というキャラクターについての感想。顎の下に両手を添えるような立ち絵の椿姫はかなり可愛いと思う。ちなみに、椿姫の家族で1番好きなのは、緑と黒のボーダーの服を着ている子。私は黒髪派なのです。これはちょっとした疑問なのだけれど、椿姫って携帯電話買う前は家の固定電話で主人公と電話してたってことだよね?けっこう夜なのに家族から咎められたような感じはなかったことを考えると、かなり優しい家族ね。そして家族から厚く信頼されてるんだね。

 第2章は比較的、頭脳戦をしていたと思う。知略を用いたパズルゲーム!みたいな感じではなかったが、互いに策略を張り巡らせる緊張感のある展開となっていて良かった。刑事が椿姫の家にいるかどうかカマをかけるシーンとか細かい部分もよくできていた。ワイは京介が犯人だとは思っていなかったけれど、かといって事件の真相には気づいていなかったからダメダメ。3億円事件みたいなものね。

 

椿姫の章 鏡

 メイン√をやってから攻略を見て各ルート・Bad Endを回収することにした。椿姫の章のアイキャッチ的な一枚絵はやはり手を前に合わせたポーズのやつで、可愛い。最終盤面でヤクザ&主人公に1人で立ち向かう椿姫もかっこかわいくて好き。

 さて、この個別√は本編√と違った形で京介を救済するという内容だった。純真無垢な椿姫の心を覗き込むうちに、主人公も浄化されてしまうというもの。最初はあたたかい気持ちに戸惑う主人公だったけれど、そして1度は再び心を凍りつかせようとしたけれど、それでも椿姫が持つ素直さ、あたたかさ、優しさには勝てないといった感じ。住んでいる世界(そして幼少期の体験)が1番対極にいる2人だったから、その対比が面白かったと思う。もし、椿姫と主人公が真の恋愛をするというのなら、京介の裏の顔を椿姫に打ち明ける必要があると思っていたから、ちゃんとそういう展開になっていて安心した。慣れない嘘をついてまで京介のことを思いやる椿姫の日記を読んだときは心打たれた。すごい女やで。自分の心の歪みに主人公が気づいてHappy Endではあった。権三との折り合いの付け方も納得できるもので良かった。

 これは他の美少女ゲをやったときにも毎回書いていることだけれど、別のヒロインを攻略したときに他のヒロインが悲しそうな様子をしているのを見るのって辛いよね。「幸せにね、京介くん……」っていうときのハルの姿が胸を突き刺した。この世界線では魔王と勇者はどんな道を歩んだのだろう。

 

第3章 悪魔の殺人

 3章で面白いなと感じたポイントは①緊張感②花音というキャラクター。

 まず①緊張感に関してだけれど、これは2章と同じ感じ。ただ今回は爆破予告ということもあって2章以上にハラハラした。2章と違って主人公サイドに園山組が加わって、より本格的な闘争になったのが、緊張感・臨場感に拍車をかけていた(ヤクザの見方ってめ↑ちゃ頼もしいよね)。ハルが1枚上手かと思いきや魔王がやはり1枚上手で、かと思いきやハルもそれを上回ってきて、いやさらにその上を魔王が上回って……みたいな展開になって面白かった。フィギュアスケートについて熱心に語りすぎてるところを見たときは、「魔王にしては気が緩んでるなあ」なんて思っていたけれど、私も完全に魔王の掌の上ということでした。相手の程度に応じてあえてヒントを与えてやるというのは良い作戦ね。西条が叔父を装って電話してきたときの選択肢はちょっと焦った。バックログを見て、おかしいと言えるっちゃ言えるから、おかしい点が「あった」の方の選択肢を選んだが、合っていたようでホッとした(実際、自分がおかしいと思ったところと一致していてなお良かった)。

 続いて②花音というキャラクターについて。普段は無邪気で天真爛漫な様子の花音の内側を垣間見ることができて、その部分がものすごく魅力的だなと思った。血の滲むような努力をしてきて、それが自身や強い芯につながっている。フィギュアスケートしてるときの花音の表情、かっこいいよね。ただ、より細かい心情というか、深遠の部分に関しては個別√の方で。泣きながら別れを告げるシーンは、胸が痛くなった。

 せっかくだから西条についても少しふれておこう。雰囲気で見れば『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』に登場する個別の11人的な感じだけれど、西条は単純に思考が偏りすぎたヤベーやつ。魔王、宇佐美ハル、主人公、権三などのような理性のある信念(良い言い方が思い浮かばない)を持っているキャラクターではない存在として(言いたいこと伝わっているかな?)、際立っていた。要するに、ちっぽけなやつってこと。

 この章で登場した重要人物といえば時田ユキもいるね。詳しくは4章の感想で書くことにする。ここに来て主人公サイドに新たな人物が加わると思っていなかったから、かなり驚いた。初見の印象は「タイプに近い人が来たな」って感じ。声を聴いて、「けっこう良い感じじゃん!」ってなった。この声どこかで聞いたことがある気がするんだけどなーってなって、cv.北都南さんって誰だ?って調べたら、高屋敷青葉の人だった。そりゃ、ハマるわけだ。我ながら、好みが一貫していて笑っちゃった。ユキの登場はうれしかったけれど、主人公サイドが強くなりすぎるんじゃないかと思って不安にもなった。が、そのあたりは上手くやってくれた。

 

花音の章 我が母の教えたまいし歌

 思った以上にしっかりしていた。椿姫の√がそれなりにしっかりしていたから、それ以上のものは望めないと思っていたけれど、十分、満足できる内容の濃さだった。ひょうひょうとしていて普段の様子からじゃなかなか中身の部分ってのがわからないキャラクターだったからね。胸の内を知ることができて面白かった。花音と郁子にスポットライトが当たっていたね。正直、主人公は椿姫のときほど役割があったわけではないが、この親子の問題に関しては当事者で何とかしないといけないものだったから、自然であると思う。

 まず、郁子について。書きやすいのでこちらから。虐待をしていたわけではないから毒親というのは言い過ぎな気はするけれど、少なくとも母親としては失敗していたと思う。過去の栄光にすがり、自分の夢を子どもに押し付け、子どもの言うことを聞こうとしない。子どもの気持ちをわかろうとしない。花音のことを理解したつもりになって、本当の理解に努めようとしなかったのが1番の悪だと思う。しかし、郁子にもある程度、同情はできるというか理解できる部分はある。ここまで歪んだ状態になってしまったのは、現役時代の挫折、そして権三に関わってしまったことが原因だと思うから。私自身も過去の失敗や挫折をずっと引きずり続けるタイプだから、(それでも子どもに押し付けることは絶対にしないと決めているけれど)オリンピック金メダルの夢をあきらめきれないのはわかる。権三に関わってしまったことで、いよいよ未来が絶たれてしまったのだろう。「歪んでしまった自分の人生を元のレールに戻すには、華やかな状態に戻すには、オリンピック金メダルの夢を叶えるしかない」と歪んだ状態になってしまうのもわかる。そういって凝り固まっていって、周りの声が届かなくなったおべっか使いの怪物が誕生してしまったのだと思う。視野狭窄といったところね。2章の闇落ちした椿姫(Bad End)も似たような運命をたどりそう。

 そんな母親の元、花音もまた歪んだ状態で育ってしまった。母親に冷めてしまい、傲慢さが加速していった。自分を本当に理解してくれる人がいないなんて寂しいに違いない。実際、主人公も「愛情に飢えているのだと思う」って秋元氏に話していたもんね。1番の味方であり理解者でもあるはずの両親が化け物なんだから、救われないよね。このあたりを的確に分析していた秋元氏、さすがといった感じ。スケートからは逃れることができず(仮にスケートをやめたとして、その場合、自分には何も残らないと考えているのだろう)、周りに利用され続けて生きてきたら、何もかも嫌になるよね。主人公に何かを言われたときに、「兄さんの言うことなら」ってすぐにコロッとなるんじゃなくて、八つ当たりするところがリアルだなと感じた。郁子も手を付けられない状態にまで凝り固まってしまっていたけれど、花音も花音で手が付けられないほど傲慢さが育ってしまい、また理解者が欲しいという気持ちが裏返しになって主人公に強く当たってしまうのだと思う。この気持ちはよくわかる。「じゃあ、何とかしてよ」って言われてどうにもできなかったときの主人公の無力感、お察しします。

 この√を進めていて「え?こんな状態、どうやって打開するんだ?」ってどんどん不安になっていっていた。主人公は花音とスケートをつなぐことだけには成功した。ここの部分も個人的にはしっくりきて良かった。あの状態の花音はもはや誰の言葉も届かない状態になっていて、主人公が何か言葉をかけて改心するとは思っていなかったから、そういう展開にはならなくてよかった。合理的で冷徹とも言える人物に育ってしまった主人公ならではの冷静なやり方だったね。「でも親子の問題に関しては、どうしようもないよなあ」と思っていたら、まさかの車突入。事故が起きるという展開は予想してなかったけれど、親子関係の問題について、花音が自身で終止符を打つという展開はそうあってほしいと思っていたものだった。なるほど、それでも花音は郁子のことを愛していたんだね。これまで郁子の嘘を黙って受け入れたり、合ってないプログラムを受け入れたりしていたのは、反対しても仕方ないという諦めもあったのだろうけれど、愛もあったんだろうな。そして、スケートを通して得た賞賛、感謝、感動の中には本物と思えるようなものがあったというのも大きいね。花音の気持ちの変化は諦めとも言えるけれど、母親への愛を再確認したとも言える。

「かわいそうなお母さん。誰もあなたのことなんて好きじゃない。だったら、わたしだけが、一番になってあげる。世界でただ一人、わたしだけは、味方になってあげるよ」

このセリフ好き。きちんと郁子にも届いたようで良かった。最後、花音の演技が始まるときにタイトルがビシッて表示される演出、良かった。祈りを捧げる花音、涙を流す郁子……、ちょっと感動した。しかし、そう上手くはいかないのがこの「G線上の魔王」。花音がコメントするシーン、なんだか叫び出しくなる気持ちになるよね。主人公も実際に「叫びだしたかった」って言っていたけれど。「裏切られひどい目に遭っているのにどうして何も言わないんだ!」って言いたいのに、当の本人が全てを押し殺そうとしているんだもの。事情を知っている人間からしたらやるせない(無力感・屈辱も感じる)ったらないよね。椿姫の日記に「出ていこうと思います」って書いてあるのを見つけたときと同じ気持ち。というかシチュエーションも似てるもんね。こういうシーンで流れる「さようなら」のBGMがすごく好きなの。あの場で取り乱したりせずに、きちっとした対応を取れた花音にもうかつての弱さはない。今後、主人公は不正をはたらいたスポンサーと戦っていくことになるのだろうけれど、そこは頑張ってほしい。

 Bad Endへの入り方も良かったね。こうして感想を書いていると再確認できたけど、このゲーム、気持ちの変化とか展開とかがものすごく納得できるんだよね。あそこで「抱きしめる」ことがBad Endに入るというのはとても納得。逃避的な選択だからね。Bad Endの花音はさすがに可哀そうだったけれど。結局、何にも救われないまま全てを失ってしまったもんね。

 花音の可愛さについて。散々、歪んだなどネガティヴな表現をしてきたけれど、ヒロインとしては普通にかわいいと思う。主人公から好意を向けられていると思ったときの照れている花音、普通にかわいい。

 本筋の話をどう処理するのかと思ったら西条死亡の流れで、「ほーん」ってなった。ユキが全然登場しなくなって悲しい。椿姫√と違って、魔王がいなくなることが明確に描写されていた。そして、ハルの旅立ちも。なんだか悲しい。

 

間章 (初詣)

 章番号が振られてなかったから、適当に名付けておいた。ギャグの会話の中ではあったが、「愛する者が、死んだときには、自殺しなけあ、なりません」が出てきた驚いた。この前まで「サクラノ詩」をやっていたからね。主人公に好意を寄せるハルがかわいい章だった。

 

〇メモ

舞台の富万別市ってどこかモデルがあるのかな。

主人公がやっていた思考整理法。画面に思いついた単語をうちまくって自分にメールを出して、整理するというやつ。ブレインストーミングと似たようなものなんだろうけれど、今度、何かあればやってみよう。

ちなみにマスコミのことを第四の権力ということを知りませんでした。

 

〇名言

「それは、願ったりかなったりうれしかったりだよ」by椿姫

舞い上がってるの可愛い。

 

「野心がいつの間にか恋心に転じることはあるが、恋心が野心に戻ることはない」by権三

椿姫に気持ちが傾きかけていた主人公に対してのセリフ。